現地の人が語るアメリカでの人種差別【現状編】

今回のGeorge Floydの一件はあくまで氷山の一角でしかない。同時に、現状の差別問題は警察の組織改革や法改正(もちろん必要である)だけでどうこうなるような問題ではないと思う。400年以上の根深い歴史によって生まれた大きな格差があると思う。今回はそれを少し深掘るべく、人種差別特に黒人と白人の差という点に焦点をあて話していきたいと思います。

まず大前提として、黒人であろうと白人であろうと能力は均一だと考えているので、機会平等が実現すれば結果平等に近づくと考えている。その上で現状のデータを見ていこう。

A new explanation for the stubborn persistence of the racial ...

これは白人家庭と黒人家庭の平均収入と所持財産のデータだ。みてわかる通り白人と黒人では大きな差がある。特に財産になると4倍以上の差がある。この経済格差は今回のコロナで表面化している。ニュースでも見るように、ニューヨークの調査では黒人のほうが高確率でコロナによって入院することが分かっている。これは背景に、経済的理由により早期に病院に行けないことや、衛生環境が悪い場所に住んでいること、遺伝子的要因、持病を持っている確率などなど多くの要因が複雑に絡み合っている。しかし、見ての通り経済格差よって生じているものが多い。持病を持っていることでさえ、食費を抑えようと健康的な食品が手に入らないことがあげられる。

もちろん失業率も見てのとおりだ。ここ数年圧倒的に黒人の失業率が高い。

ここで、この経済的格差を犯罪率につなげたいと思う。

一列目が人口の分布を示している。二列目が収監されている人の割合である。

黒人のほうが圧倒的に収監されている人数の割合が多いのがわかる。これはなぜなのだろうか。

いくつかの説明方法があると思う。依然として人種差別が横行しており、黒人を逮捕する傾向が強いのかもしれない。しかし、私はそれだけではないと思う。

むしろ、一番の大きな要因は経済的格差だ。アメリカは資本主義国家だ。もちろん一定の社会保険はあるものの、日本ほど手厚くはない。そんな国で経済的に圧迫されてしまえば犯罪に手を染める可能性はもちろん上がる。”with a degree of consistency which is unusual in social sciences, lower-class people, and people living in lowerclass areas, have higher official crime rates than other groups”と一つの論文では結論を出している。(John Braithwaite, Inequality, Crime, and Public Policy (1979).)これは様々な理由がある。経済学的にはリスクとメリットを比較し行動が起こると考え、貧困層にとってはリスクが少なくメリットが多い。同時に社会学では彼らの反発心だという考えもある。

少し話がずれたが経済格差が大きく犯罪率に起因しているのは明確だ。アメリカは銃社会だ。警官も命がけで警備している。相手が不審な行動をとった場合、打ち殺すのは自分と周りの人の保守のためである。やはり黒人が犯罪率が高いと警官側も警戒する。これまで起こった黒人に対する不当な取り締まりもこのようなバイアスにあるのかもしれない。これは何も今回の事件の警官の味方をしているわけではない。確実に今回の警官は重い処罰を被るべきだ。しかし、今後より改善していくためにはそもそも黒人(他の人種も含め)の犯罪率を下げることが重要だと思う。

人間は多くの事象の中で共通点を見つけだして、自分の価値観または判断基準に組み込もうとする。同時にこの犯罪率の高さや貧困率の高さは、良くない黒人のイメージを作ってしまっている。これは黒人の自己肯定感にも悪い影響を与えていると感じる。これを教育を通じて偏ったイメージにつなげないことも重要だが、そもそもの格差を是正するべきだ。

ではそもそもなぜここまでの経済格差ができたのでしょ。これは歴史編をまず読んでほしいです。

この歴史編での知識を前提のもと、持論を展開したいと思う。

【なぜ経済格差が生まれたのか】

まず保有資産の格差に注目をしたい。

経済格差の正体は非常に複雑な要因からなっている。しかし、一つ確実に言えるのは歴史的背景だ。上記の記事で述べているように、黒人は長いこと白人に奴隷として扱われ富を搾取された。これによって奴隷解放令が発令されたころには大きな格差があった。その後もジム・クロウ法などによって、州によって白人と黒人がつける職業も異なった。これにより収入の格差がうまれ、保有資産の差につながった。

この事実に追記しておきたいのが、アメリカの資本主義だ。アメリカは強く資本主義だ。資本主義は資本を持っている人間が資産を増やすことに適している。株式投資や家の購入など資産を持っている人は働かずとも、倍々ゲームのように増える。しかし、このスタートの資産が少ないとこの投資や家の購入すらできない。奴隷解放後の黒人はこの状況だった。さらに、ジムクロウ法やRedliningによって、黒人は特定の不動産や金融商品の購入が禁じられていたり、融資や借り入れをする際も不当に高い利子を請求されたりすることが多かった。資本主義の特性上、これらの理由によって貧富の差は縮まるどころか、拡大していっている。

そしてこれが一番複雑になるのが教育だ。資金のない黒人の多くは、私立のエリート学校ではなく地元の学校に通わせるだろう。しかし、Redliningなどによって貧しい地区に住んでいる場合が多い。これによって、教育の質も低下し、犯罪も横行する。すると、地区の少ない資金を警察などに割り振る必要が増え、より一層教育用の資金が圧迫される。すると教育の質が低下しさらに犯罪が横行するという悪循環になる。そして、学校を卒業しても教育レベルの差によって、就職先の確保や大学への進学も厳しくなる。すると、その地区はさらに貧しくなり犯罪も増えるという悪循環に次ぐ悪循環が続く。特に大学レベルになると、資本主義の悪い側面がでてくる。アメリカの大学は非常に高価で、資金がない人は行けなくなる。これによって、さらに貧しい黒人の人は悪循環にはまる。

【悪意なき行動】

この問題は誰が悪いと断定できる問題ではない。白人も必死に投資や労働を行い資本を貯めてきた。かといって黒人も厳しい環境で生まれてしまっただけで、その中で頑張っている人も多くいる。ここで、政府が白人から資本を奪い、黒人に再分配することは現実的ではなく正当化もできないと考える。表面上に見える差別(例えば差別用語を用いた罵倒)などは断固としてなくなるべきだ。しかし、黒人差別はそんなになまぬるい問題ではない。歴史と経済システムが生んでしまった、副次的な結果であり現在多くの人は強い悪意を持っていない。考えてほしい。自分が白人であろうと黒人であろうと自分の資本を増やしたいと思うにきまっている。そして、その資本を使い自分の子供に良い教育を受けさせ、良い人生を送ってもらうと思うのは自然である。そして、その子供も全力で環境のリソースを使い、高みを目指す。そして、就職活動では競争を勝ち抜き良い会社に入りたいと思う人が大勢だ。しかし、これらの悪意なき行動が知らぬ間に、格差を拡大させてしまっているのかもしれない。悪意なき行動。これほどまでに解決が難しいものはあるのであろうか。

アトランタの壁アート

最後に、僕自身アメリカの主要都市で唯一黒人がマジョリティーであり、キング牧師の故郷であることから常に黒人権利運動の中心であるアトランタに住んで二年になる。苦しむ黒人の友達も多く知っている。そのなか、解決策があるわけでもなく、むずむずする日々が続いている。根本的問題解決には長い年月がかかるだろう。政府による、格差の是正や教育分野への投資。住む場所や文化の再形成など、楽観的にみても一世代以上はかかると思う。しかし、そんな中で我々ができる微々たる貢献の一つは自分が持っている偏見を疑うことだ。そして、とにかく対等に接することだ。優遇する必要も厳しくする必要もない。無駄な力を加えず自然に接し、だれにでも「優しさ」を持って接することだと思う。友達でも、電車や道中で初めてあった人であっても。そんな小さな行動が大きな希望を人に与えることができる。僕はそう信じてる。

現地の人が語るアメリカでの人種差別【3分で読める歴史編】

アメリカ合衆国(以後アメリカ)といえば、世界一の経済大国で世界で影響力をもっているといっても過言ではない。しかし、彼らも暗い一面を抱えている。

アメリカでの人種差別は非常に根深い。George Floydの一件はあくまで氷山の一角でしかない。私は希望を持ちたいが、現在の社会での動きがあり、法改正等があっても人種差別はなくならないと考える。もっと抜本的改革が必要になる。ここでは特に黒人差別問題について、そもそもどのような歴史があって生まれたものなのかをかみ砕いていきたいと思う。(アトランタがなぜ黒人権利で重要なポジションをとっているのかはまた別の機会に書くとする。)

【歴史】

そもそもなぜアメリカに多様な人種が存在するのか、日本人にとっては理解しにくい部分がある。アメリカはイギリスを中心としたヨーロッパ諸国の人が乗り込んできたことでできた国だ。彼らは現地のネイティブアメリカンと呼ばれる民族を抑圧し、多くを殺した。そして、自分たちの土地として統治し徐々に経済を発展させ、次期にイギリスから独立しアメリカ合衆国を築く。しかし、ここでは白人とラテン系の人のみであった。ではなぜアフリカ系アメリカン人が誕生したのであろう。それは奴隷制度にある。奴隷が合法であったこの時代、アフリカ大陸を支配してたこともあり、大量のアフリカ人をアメリカ大陸から連れてきて、奴隷として働かせた。最初にアメリカに黒人奴隷が運ばれてきたのは、1684年になる。これはアメリカだけでなく多くの国も同じことをしていた。つまり、アメリカに多様な人種と文化が集まったのは副次的産物なのだ。

Map of the Week: Slave Trade from Africa to the Americas 1650-1860 ...
奴隷輸出入(単位:百万人)

まさに人権的には暗黒時代だ。しかし、経済的には黄金期であった。奴隷と産業革命の力を使い、当時世界で大きな市場であった綿と砂糖の産業を中心にみるみるとアメリカ経済は発展していった。

しかし、徐々にこの人権問題がヨーロッパを中心に問題視され、アメリカにもその波が来た。New Yorkを中心とした北部は奴隷に依存しない経済を持っていたこともあり(工業化していた)、奴隷制度撤廃が実現した。しかしAtlantaを中心とした南部ではそうはならなかった。南部の中心産業は、依然綿や砂糖であり経済的に奴隷制度に依存していた。この対立が一つのきっかけとなり、南北戦争が起きた。結果、北部が勝利し奴隷制度撤廃がアメリカ全土で実現した。ここで初めて、黒人の独立が正式に認められた。これが1865年である。日本でいえば明治維新の少し前になる。

しかし、アメリカでの人種間の隔たりはそう簡単には消えなかった。特に南部では人種差別主義的法律であるジム・クロウ法が制定され、人種差別が正当化されていた。それによって警官による過度な暴力も起こった。公共施設の使用もいつも黒人と白人で分けられ、バスを乗るときも黒人用の席が決まっていたりした。そんな中、モンゴメリー・バス・ボイコット事件が起こる。概要としては、バスで黒人が白人に席を譲らずその黒人が逮捕されてしまった。これがこれまで黒人が感じていた不満を爆発させ、大きな運動となりバスの使用をボイコットした。その後バーミングハム運動を起きた。この運動はデモ隊は暴力を使わず、警察側が過度な暴力をふるい、それが全国で放送されることで世論は黒人の人権保護になびいた。

The Struggle for Civil Rights in Birmingham – US Civil Rights Trail
バーミングハム運動

The Birmingham Campaign (1963) •

これらの活動で中心的な役割を担ったのが、有名なキング牧師である。彼は「非暴力」常にかかげ、暴徒化したデモを平和的デモに変えた。そして、ダメ押しにワシントン大行進を決行し、20万人以上の参加者を集めた。そして、かの有名な「I Have a Dream」のスピーチを行った。そして、1964年に公民権法が制定され、人種差別を禁じる法律が国家単位でできた。その後、1965年に血の日曜日事件が起き、さらに世論が盛り上がる。そして、同年新たな投票法が導入され人種的少数者の投票権が確保された。そして、キング牧師が暗殺された1968年、公正住宅法が導入され家を売り買いや借り貸しする際に人種や性別、国籍による差別を是正された。

1月第3月曜日に振り返る、マーティンルーサーキング牧師の生涯
キング牧師による”I Have a Dream”

これらがいわゆるCivil Rights Movementと呼ばれるものだ。

このように、アメリカでは国の半分近くの歴史が、約200年の奴隷の歴史なのだ。そして約400年以上人種間の問題は存在している。そして、このような暗い歴史があるため、人種差別はよりデリケートで人々を感情的にするのだ。常に前進しているようで、繰り返し黒人に対し差別が起きてる現状が変わらないことに不満を抱えている人は多く存在するのでしょう。そして、今60代以上の人はまた同じようなことが起きていると感じていることでしょう。

次回はアメリカでの人種差別の現状について話したいと思います。